第12回 音階と数学、純正律と平均律(6月30日)


中間レポート課題2


音階と数学

 「ド」と「ソ」などの音の高さとその関係について一番最初に体系的に研究したのは紀元前500年ごろの古代ギリシャの数学者ピタゴラスの学派によってであった。ピタゴラス学派の作ったルールにより、楽譜が生まれ、複雑な音楽を可能にした。また、現在使われる平均律は、1636年のマラン・メルセンヌ著「普遍的調和:音楽の理論と実際」で確立された。そのためメルセンヌ素数の名前の由来でもあるメルセンヌは音響学の父とも呼ばれる。
 音程について音響的・数学的に規定したものを音律という。音律では、各音の相対音が基礎となるため、音の高さ(振動数)ではなく振動数(または周期)の比率が重要である。音階とは、実際に使われている主要な音を1オクターブ内の高さの順に階段的に並べたものである。

 

和音を聴き比べてみよう



ピタゴラスと3つの平均

 Pythagorean means(ピタゴラス平均)とは、相加平均算術平均, Arithmetic mean)・相乗平均幾何平均, Geometric mean)・調和平均Harmonic mean)の3つのことである。 個の(正の)値 についてそれぞれの平均は以下で定義される。

 

 

 

例えば、2つの正の値a, bについてそれぞれの平均と具体的な例を考えると、

      

      辺の長さがaとbの長方形の面積と同じ面積を持つ正方形の一辺の長さ

  1 kmの道のりを行きは時速a km、帰りは時速 b kmで歩いた時の平均の速さ

また、それぞれの平均の幾何的な意味は下図のようになる(証明は簡単)。

よって、常に

 

の関係が成り立つ。等号が成り立つのは全ての数値(a,b)が全て等しいときである。なお、 は有名な相加相乗平均の式である。


倍音とオクターブ

 ピタゴラスはモノコード(1弦琴)を使って、弦の長さと音の高さの関係を調べていた。同じ長さの弦のモノコードを2台用意し、その音を聞き比べた。まず初めに、弦の長さを半分にすると、同じ音で高さが高くなる(オクターブ)ことを発見した。
 その後倍音に関しての詳細な研究を行ったのは17世紀のメルセンヌであり、2倍音、3倍音が音色と関係することを発見した。
 


平均と心地よい音の響き

 ピタゴラスが音について考えるようになったのは、あるとき鍛冶屋の近くを通りかかると、ハンマーの音が心地よいハーモニーを持つ(調和する)ものと、そうでないものがあることに気づいたからとの逸話がある。そもそも音律は、複数の音が心地よく調和するように考えられたものなのである。ピタゴラスが音律を体系化するときに使ったのが調和平均である。

ピタゴラス音律・ピタゴラス音階

 モノコードの弦の長さを1とすると、そのオクターブの音が出る弦の長さは1/2である。1と1/2の調和平均Hは、

 

である。ピタゴラスは、1からはじめて順に調和平均Hをかけていくことで得られる比率を使って音律を作った。ただし、弦が1/2より長くて1より短いときは1オクターブ内に音がおさまるが、その範囲外になった場合には、2倍(オクターブ上)したり1/2倍(オクターブ下)することで、1/2から1の間に収まるようにした。手順は以下のようになる。

 

     これは  より小さいので2倍して 

 

  これは  より小さいので2倍して 

 

  これは  より小さいので2倍して 

課題1 Mathematicaで上の計算をして、ピタゴラスの音階を鳴らしてみよう。周波数は周期の逆数であることに注意する。

クリア

Clear["Global`*"]

a = 1;

b = a*(2/3);

ヒント1

wave[L_] := Play[Sin[2 Pi 420 t/L ], {t, 0, 1}];

c = b*(2/3)*2;

...

l = k*(2/3)*2;

ヒント2

Sort[sound, Greater]

m = l*(2/3);


sound = List[a,b,c,d,e,f,g,h,i,j,k,l,m]

ヒント3

Sound[Table[wave[nに関する関数], {n, 1, 13}]]





 調和平均だけを使った音律では13番目の音の弦の長さがほとんど1に近くなる。ピタゴラス学派はこれをほぼ1であるとして調和平均Hをかけることをここでやめたようである。実際これ以上2/3をかけても、これよりも1に近づくことはない。つまり、これによって、1オクターブが12個の音に分割されたのである。現在1オクターブ内に12個の音があるのは、このピタゴラス学派の方法を踏襲しているからである。

 弦の長さ1を「ド」とすると、2/3の音は「ソ」である。このように調和平均を使った音律では、完全5度が出ることがわかる。この方法を使うと、

ド→ソ→レ→ラ→ミ→シ→ファ♯→ド♯→ソ♯→レ♯→ラ♯→ファ

という順に音が決定される。最後に定めた「ファ」とその上の「ド 」(1の半分1/2として定めた1オクターブ上のド) 以外の完全5度はすべて弦の長さの比が

1:2/3 = 3:2 (3の方が低い音)

となっている。このようなとき、完全5度は純正5度であるという。


調和平均と相加平均

 調和平均のみを用いた方法では、ファの音が最後に決定されるため、その比率は美しいとは言い難い。実際、最後に定めた「ファ」とその上の「ド」の間の完全5度に関する弦の長さの比は、

131072/177147: 1/2 = 0.739905:0.5 = 2.95962:2 

となり、3:2より少し比が小さい。このズレをピタゴラスのコンマと呼ぶ。


 そこで、相加平均も用いた場合を考える。1と1/2の相加平均Aは



であり、この比率が「ファ」(ドに対する完全4度)を与える。

 実際にはピタゴラス学派は調和平均のみを使って音律を作ったようであるが、ピタゴラス音律というと調和平均と相加平均を使ったものを指すことが多い。世界中の多くの民族がピタゴラス音律内の音程を組み合わせて音階を作っている。日本でもこの音程による5音音階を使っていた。

ピタゴラス音階の限界と純正律

 ピタゴラス音律では、5度(ドとソ)や4度(ドとファ)の和音ならば協和音となり心地よい響きになる。しかし、3度(ドとミ)の場合では不協和となって濁ってしまう。そこで登場したのが1482年バルトロメオ・ラモス・デ・パレーハによって提案された純正律である。

 純正律では3度を使った和音「ドミソ」「ファラド」「ソシレ」の音の振動数の比率が4:5:6となるようにそれぞれの真ん中の音「ミ」「ラ」「シ」が決定されている。

振動数なので、逆数になっていることに注意

ドミソ  より、 

ファラド (ドはオクターブ上)  より、 

ソシレ (レはオクターブ上)  より、 

 

課題2 純正律で音階を鳴らしてみよう。


音名

 私たちが日常的に使っている「ドレミファソラシド」はイタリア音名である。音楽では、

アメリカ音名 CDEFGABC

ドイツ音名 C(ツェー)D(デー)E(エー)F(エフ)G(ゲー)A(アー)H(ハー)C(ツェー)

が用いられる。ドイツ音名では、シ♭の音がBである。

ここで見てわかるように、Aとなっている基準の音はドではなく「ラ」の音である。


国際標準ピッチ ラ=440 Hz

 音律は、音の周波数を決めるのではなく、音の周波数の比率を決めるものである。そのため、どの音をどの周波数にするか(ピッチ)は、地域、時代、演奏が行われるその場の楽器編成などによって異なっていた。17世紀から19世紀にかけて、基準ピッチとしてのA(ラ)の音は370 Hzから560 Hzぐらいまでのばらつきがあったようである。このため、国際化によって音楽家の交流が進むと、他人の曲を演奏するときなどに不都合が生じた。

 そこで 1939 年 5 月にロンドンで開催された標準高度の国際会議で「ラ」( ピアノ中央の「ド」のすぐ上の「ラ」) の振動数を 440 Hz と定められた。これを国際標準ピッチと呼ぶ。しかしながら、 現代においても、 国際標準ピッチよりもやや高い 442 Hzから448 Hz で演奏されることが多い。実際、楽器によって適したピッチというものがある。例えば、管楽器はB♭(ベー)の音が合わせやすい(開放音)ため管楽器中心の吹奏楽ではB♭のピッチを合わせるが、弦楽器はAが開放音のためオーケストラでのピッチ合わせはAの音が使われるなど、楽器によって特徴がある。

  

純正律の限界

 全ての音の関係性が綺麗な比率で表される純正律は、とても綺麗に響きあう。しかし、音同士の間隔が一定ではないため、音楽が発展し複雑性を増してくると問題が生じた。その問題が特に現れたのは転調をするときである。そこで、この問題を解決するために、音同士の間隔が一定になるように音律が考えられた。それが平均律である。ピアノの調律は平均律で調律されているため、協和を重んじ純正律を使うオーケストラとピアノとのセッションなどは注意が必要である。


平均律

 1636年マラン・メルセンヌによって考案された平均律は、1オクターブを12等分した音程で構成される音律である。

 初めの音の弦の長さを とすると、2番目の音の弦の長さはその 倍で定義する。つまり、初項 、公比 の等比数列となる。

 

平均律は、ピタゴラス音律や純正律を改良した作られたため、同じように1オクターブを12個に分割すると決められた。よって、12回 をかけると、初めの音の弦の長さ の倍音になるはずであり、その倍音の弦の長さは のはずなので

 

となり、

 

と求めることができる。平均律の比率は綺麗な整数比ではないため、純正律に比べると和音は濁ってしまう。そのため、平均律が使われている今でも、オーケストラなどでは純正律を用いていることが多い。

課題3 平均律で音階を鳴らしてみよう。